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大阪地方裁判所 平成9年(わ)2305号 判決 1997年10月03日

主文

被告人を懲役一年六月に処する。

この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大阪市北区大淀南二丁目二番四八号所在の朝日放送株式会社がインターネット利用者に提供するため開設したホームページ内の天気予報画像を消去してわいせつな画像等に置き換え、同会社の情報提供業務を妨害するとともに、わいせつな画像を不特定多数のインターネット利用者に閲覧させようと企て、平成九年五月一八日、埼玉県富士見市<住所略>の当時の自宅において、インターネットを利用して、右朝日放送株式会社内に設置されたサーバコンピュータの記憶装置であるハードディスク内に記憶・蔵置されていた天気予報画像のデータファイル九個を消去して損壊するとともに、女性の性器を露骨に撮影したわいせつな画像のデータファイル五個を含む画像のデータファイル九個を、消去した右天気予報画像のデータファイルと同一のファイル名を付して、右サーバコンピュータに順次送信するなどし、右ハードディスク内に記憶・蔵置させ、右サーバコンピュータが、不特定多数のインターネット利用者に対し、右天気予報画像のデータファイル九個分のデータを提供しようとした場合には、これに代えて新たに記憶・蔵置させたデータファイル九個分のデータを提供する結果となり、右利用者らが右わいせつな画像のデータファイル五個分のデータを受信してこれを再生閲覧することが可能な状況を設定し、右ホームページにアクセスしてきたAら不特定多数の者にこれを再生閲覧させ、もって、人の業務に使用する電子計算機の用に供する電磁的記録を損壊し、かつ、同電子計算機に虚偽の情報を与え、電子計算機に使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害するとともにわいせつな図画を公然と陳列したものである。

(証拠の標目)<省略>

(法令の適用)

被告人の判示所為中電子計算機損壊等業務妨害の点は刑法二三四条の二に、わいせつ図画公然陳列の点は同法一七五条前段にそれぞれ該当するが、右は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、同法五四条一項前段、一〇条により一罪として重い電子計算機損壊等業務妨害罪の刑で処断することとし、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件は、朝日放送のホームページ内の天気予報画像をわいせつ画像に置き換えて、同社の業務を妨害するとともに、同ホームページ上でわいせつな図画を公然陳列したという事案である。虚偽の情報を入力してプロバイダから得た仮ユーザーIDを利用してアクセスしていた右ホームページで、たまたま天気予報画像が書き換え可能な状態にあることを発見したことから、検挙されることはないであろうと安易に考えて、かねて集めていたわいせつ画像に置き換えて右ホームページの利用者を驚かせようと思い付き、直ちにこれを実行したものであり、ネットワークにおける匿名性に付け込んだ卑劣で自己中心的な犯行といわざるを得ない。また、その結果、公共放送である朝日放送の本来の業務目的を損ない、わいせつ画像を利用者に閲覧させることとなったばかりか、その復旧等のため一時的な閉鎖のやむなきに至らせるなどした点、結果も重いというべきである。被告人の刑事責任は軽いとはいえない。しかし、他方では、本件犯行には多分に偶発的な要素もあるほか、被告人には前科前歴がなく、反省の情も認められるので、これら諸事情を総合考慮して、その刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 的場純男)

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